大腸癌 大腸腫瘍に対する内視鏡的治療 ~EMRとESD~
大腸の走行

大腸がんの好発部位

大腸がんの罹患率

男性はおよそ11人に1人
女性はおよそ14人に1人






大腸壁の構造
内腔より|①粘膜層 ②粘膜筋板 ③粘膜下層 ④固有筋層 ⑤漿膜

早期大腸がんとは
- 粘膜下層までに留まるがん
- 粘膜下層までに留まるがん

早期大腸がんと進行がんの違い

大腸がんの症状
早期大腸がんにはほぼ症状はありませんが、進行すると、腹痛や出血、便秘や下痢、便が細くなる、残便感があるなどのさまざまな症状が現れます。とくに排便時の出血で異常に気付くことが多いです。肛門に近い場所の出血は赤く、大腸の奥からの出血は黒っぽく変色します。血液と粘液が混じっていることもあります。
気をつけなければならないのは、「痔による出血だろう」と自分で判断せずに、血便が続くようなら医療機関を受診し検査を受けることが大切です。
大腸がんの診断
- 健康診断での便潜血反応で陽性
- 腹痛や出血、便秘や下痢、便が細くなるなどの症状出現
- 下部消化管内視鏡検査を受ける
- 病変指摘された場合は、内視鏡にて色素観察や狭帯域光観察、拡大観察などを施行し、病変の質的診断、範囲診断、深達度診断をする。
- 必要に応じて組織検査を施行する
- CTなどにて転移の有無を精査する。
- 治療方針決定
内視鏡的切除の適応
早期大腸癌のうち、リンパ節転移の可能性が極めて低く、病巣が内視鏡的一括切除できる大きさと部位であり根治性が期待される病変は、原則的に内視鏡治療を行う。明らかなcT1b(SM)癌(SM 浸潤距離1,000μm 以深)は、原則的に外科手術を行う。早期大腸癌に対する内視鏡的切除は一括切除が基本であるが、SM 浸潤の可能性を確実に否定できる場合、分割切除も適切に施行されるのであれば許容される。
大腸腫瘍に対する内視鏡的治療
① 内視鏡的粘膜切除術(EMR)
粘膜下層に局注液を注入して病変部を盛り上げ、癌組織の根元にワイヤーをかけ、高周波電流により焼き切る方法

EMR症例提示
EMRの実際①


EMRの実際②

EMRの実際③



切除面に残存病変(とりのこし)が無いか確認

もっと大きな病変や局注にて浮きにくい病変ができてしまったらどうやって取るの?
②内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
癌病変を確認し、内視鏡用電気メスを使用し切除範囲をマーキングする。
粘膜下層に局注液を注入して病変部を盛り上げ、マーキングした部の外周を電気メスで切開する。その後、粘膜下層を剥離して切除し、病変を回収する。

ESDの開発の経緯
1996年頃に国立がんセンターを中心に、大きな病変や潰瘍瘢痕を伴い従来のEMRでは内視鏡による切除できなかった病変を一括切除するための内視鏡技術が研究されました。
その結果ITナイフやフレックスナイフ、フックナイフなどの内視鏡用電気メスが開発され、これらを用いることでより大きな病変を一括切除する方法が開発されました。この技術をESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)と言います。ESDでは従来のEMRでは切除できなかった大きな病変でも一括切除が可能で、一括切除することにより正確な病理組織診断ができるようになり、正確な治癒判定や追加治療の必要性の判断が可能となりました。
- 胃ESD:2006年4月保険収載
- 食道ESD:2008年4月保険収載
- 大腸ESD:2012年4月保険収載
ESDは最も先進的であり、かつ最も確実な内視鏡的切除手技であるが、大腸は屈曲やヒダの存在のため構造が複雑なうえ、壁も薄く手技的な難易度が非常に高い。
しかし分割切除を行った場合、正確な病理診断が困難となることや再発の危険性があるため、大腸病変においても一括切除の必要性が問われるようになった。このため虎の門病院などのESD基幹病院にて教育システムが構築され、大腸ESD術者の普及とつながっている。
ESD 処置具

内視鏡用電気メス:長さ1.5mm 内視鏡用止血鉗子
ESD
長所 病変の一括切除が可能(大きな病変や瘢痕合併症例などの、EMRでは一括切除が困難な症例でも比較的安全に切除可能であり、病理学的評価が正確、再発リスクがきわめて低い)
短所 治療費が比較的高い、治療時間が長い、入院期間が長い、偶発症のリスクが高い、習得に時間がかかる、術者が少ない、施設が少ない
EMR vs ESD
- 病変の位置:肛門管に浸潤した病変やヒダをまたぐ病変はEMRでは切除しにくい
- 病変径:病変が大きいとEMRでは一括切除困難、EMRの際に使用するスネアは一般的には30mm程度の大きさまでである。このため病変径に関しては20mm程度の大きさであれば一括切除可能であるが、それ以上になると分割切除となる可能性が高い。
- 瘢痕の有無:瘢痕があるとEMRでは切除困難。上記のような条件を検討しESDとEMRを使い分けることが必要である。
ESDにおける偶発症
①出血
出血には、術中出血、術後出血がある。ESDにおいて術中出血のコントロールが非常に重要であり、常に術野をドライに保ち視野を確保しなければならない。出血があればウォータージェットを使用し出血点を確認した後に止血鉗子による凝固波を使用し止血する。更に出血が続く場合にはクリップにて止血する。
②穿孔
粘膜切開、粘膜下層剥離のどの段階でも起こりうる。多くは数ミリ程度の微小穿孔であり、術中に気付くことが多く、すみやかにクリップによる閉塞術を行うのが原則である。気腹が著明な場合には経皮的に穿刺し脱気をする。その後禁食による腸管安静および抗生剤投与を行えば保存的加療で改善することもあるが、しかし腹膜炎を認めた場合は緊急手術となる。
ESD症例提示
ESD症例:S状結腸LST-NG(粘膜内癌)




ESD後病理診断
Adenocarcinoma
25×20mm well differentiated
M ly0 v0 HM 0 VM0
ESD症例:直腸癌に対するESD


ESD後病理診断
Adenocarcinoma
32×25mm well differentiated
M ly0 v0 HM 0 VM0
ESD症例:盲腸部LST(粘膜内癌)

ESD後病理診断
Adenocarcinoma
54×52mm well differentiated
M ly0 v0 HM 0 VM0
早期大腸癌(上行結腸)に対するESD


ESD後病理診断
Adenocarcinoma
64×60mm well differentiated
M ly0 v0 HM 0 VM